五輪山〜赤禿山
個人山行 sue
【日時】 2012年4月27−28日
【メンバー】 Y
【天候】 晴れ
【山域】 北ア、頸城
【地形図】 白馬岳、越後平岩、小滝
【時間記録】〔4月27日〕
栂池ロープウェイ終点09:05 − 12:00白馬乗鞍− 12:30白馬大池 − 15:00瀬戸川15:30 − 17:00白高地沢左岸台地(泊)
〔4月28日〕
(泊) 5:55 − 7:00花園三角点 − 9:00五輪山 −10:30黒負山 − 12:00聖山 − 14:20赤禿山 − 16:30小滝駅
〔4月27日〕
大糸線
登るにつれて霧が深くなり天狗原では視界が悪くなっていた。目の前には真っ白な白馬乗鞍がそびえているはずなのだが、まったくわからない。登ろうか、このまま蓮華に下ろうか、しばらく考えたが行ける所まで行くことにして出発する。
山頂に近づくと霧の中から抜け出た。上空は素晴らしい青空が広がっており、登ってきて正解であった。平坦な地形の中、蓮華温泉に続く2465mピークに向かうが、視界が悪いと不安になる所だ。
《白馬大池と小蓮華岳(奥)》
2465mピークの頂上付近や北側斜面などには雪が付いていない所もあるのでので、いったん大池小屋まで降りる。ここから夏道のある尾根を天狗の庭を経て兵馬ノ平に向かって滑り降りるのだが、あまりの天気の良さについ油断してしまい、しっかり確認しないまま、間違って左側の尾根に入ってしまった。気づいた時には登り返す気にもなれず、そのまま兵馬ノ平を目指す。前方の高い山々の山頂部分は見えているが、兵馬ノ平は雲海の中だ。
《五輪山(左)と黒負山(右)》
標高1800mくらいから雲海の中に入る。高度を下げているのにひんやりと寒くなり視界も悪くなる。オオシラビソの林からブナ林へと慎重に下り続け、瀬戸川への降り口に出る。ここからはベタベタと付けられたピンク色のテープに導かれ、すんなりと瀬戸川に架かる橋に着いた。
ここでようやく大休止とするが、重大なことに気づく。ザックにつけておいたスコップがない。滑っている時に木に引っ掛けて落としてきたようだ。北アルプスの自然を汚してしまった。大いに反省である。
失態はさらに続く、サングラスもない。これには本当に困った。長年使ってきた大切な物なのだ。雲海の中に入った時に必要なくなり、しまいそこねたようだ。地図を見る時にはサングラスを老眼鏡にかけ替えていたのだが、100円の老眼鏡だけが残ってしまった。ボケが始まってからの単独行は要注意だ。
気を取り直して最後の登りにかかる。相変わらず濃い霧の中だが、適度な間隔でテープがありルートファインディングには苦労しない。それにしても、真新しいテープが3mも上のブナの幹に巻きつけられている。今も相当量の積雪だというのに、いったいどれほどの雪が積もっていたことか。
ひょうたん池を過ぎたあたりで新しい白高地沢橋を渡り、対岸に移るとテープがなくなった。テープの主は朝日岳へ向かったのだろう。
対岸の台地の上に今夜の泊場を探す。スコップがないので風除けになるところを探していると、うまい具合にネズコの大木があり、しかもありがたいことに傍らには雪が消えて地面の出ているところがある。雪の上で寝ないですむのだ。少々ブッシュが気になるが十分ツェルトを張れる。
荷物をコンパクトにするためシュラフをもってこなかったので、雨具を着てカイロをポケットに入れシュラフカバーをかぶって寝る。
〔4月28日〕
2日目は霧もすっかりなくなり、快晴となった。歩き始めていきなりカモシカ坂の急登となり、最初はスキーを担いで木立の中を登る。やがて木々もなくなって花園三角点に着く。目の前には五輪山がそびえ、雪倉、小蓮華の展望もすばらしい。前日の白馬乗鞍から蓮華に続く尾根も正面に見える。この尾根は地形図の等高線から想像されるほどすっきりはしていない。
《花園三角点から五輪山》
五輪山の名の由来は知らないが、五輪尾根はオリンピックの滑降コースが設定できるほどのスキー向けの地形だ。天気は無風快晴で、黄砂の飛来もなく空は真っ青。これ以上の天気は望むべくもないのだが、サングラスがないので素直に喜べない。
五輪山からは大所川側の雪の斜面から黒負山とのコルに滑り降りる。山頂までの登り返しは少々つらいが、五輪山と同様ここからのロケーションも申し分ない。ただ、目指す赤禿山が遥か遠くに見えていて、ゆっくり休む気にはなれない。
《五輪山から雪倉岳(手前)と白馬岳(奥)》
黒負山から聖山までの稜線はとても気持ちがいい所だ。途中の1723mピークは左側を巻いたので登り返しもほとんどなかった。聖山の北西側にも素晴らしいブナ林の斜面が広がっているが、小滝川まで降りてもこの時期は川沿いの林道は簡単には歩けないものと思う。
《聖山から黒負山を望む》
聖山から赤禿山までは稜線上に小ピークがいくつも現れる。雪の付き具合を見て巻くことになるが、ほとんど左側を巻いた。赤禿山手前の1050mのコルまでスキーで滑ってこられたが、もう少し雪が消えればここはヤブ山派のエリアとなるだろう。
最後の登りは特に問題となるところもなく、あとは疲れた体に鞭打って登るのみだ。赤禿山は里山派スキーヤーに人気の山だが、休日なのに誰も登ってきた様子がなかった。フィナーレはブナ林の中を一人快適に滑降する。
この長大な尾根はさらに、辰尾山を経て小滝駅近くまで続いており、末端まで行くつもりで小滝駅に車を置いてきたのだが、もう時間もないのでパスする。例年、連休前には高浪池まで道が開けられており、県道と高浪池に行く道の分岐まで滑り降りてあとは車道を小滝駅まで歩いた。
駅までの道すがら、まだ雪の残る集落の中で遅い桜が満開だった。桜を見上げる目から涙がこぼれた。日本の原風景とも言えるこの光景に感動した・・・わけではなく、長大な尾根を滑り抜けた感慨・・・でもなく、単に、強い紫外線に痛めつけられた目が悲鳴をあげているのであった。
〔おまけ〕
2日目の朝のこと。ツェルトの中で出発のしたくをしていると、チン、チンと鐘の音が聞こえてきた。登山者がよくザックや腰につけている熊よけのおちょこくらいの大きさの鐘の音だ。まだ5時前なのにどこに泊まっていたのか、ずいぶん早く出発する人がいるものだと感心していると、鐘の音はしだいに遠ざかるでもなく、ふっと消えてしまった。鐘の音から約1時間後ようやく自分も遅い出発をし五輪尾根を登る。ところが、いっこうに先行者のトレースが見当たらない。スキーの跡も靴の跡も何もなかったのだ。
あの鐘の音はいったい何だったのだろう。野鳥には詳しくないが、鐘の音のような声でなく鳥でもいるのだろうか。あの音が夜中に聞こえていたら相当の恐怖だ。